今回は、私の身の回りで起こった不思議なご縁の話をお伝えします。
スポーツが得意、頭が良い、ちょっとヤンチャだけど優しい、面白い、子供の頃の男子の『モテ要素』はこんなところかと思う。
女子の好みによっても分かれるが、おおよそこの中のどれかに当てはまるに違いない。
昔も今もこの『モテ要素』に大きな違いは無いと確信している。
これらに該当する男子を一軍だとすると、失礼ながら彼は二軍だった。
この話はその「一軍」などの呼び名がまだ存在しなかった40年近く昔に起こった二軍男子の奇跡の物語である。
出逢い
彼との出逢いは45年前の中学校の入学式だった。
当時は、坊主頭が義務付けられていて、みんなイガグリ頭での出逢い、それでもイケメンな奴らは、やはりイケメンだった。
言うまでもなく私も二軍だったので、同じクラスになった彼とはすぐに意気投合した。
中学生になると部活動が始まる。私は従兄の影響で卓球部に入部した。
意気地も無く行動力も無かった私は入部するまでに少々時間がかかってしまった。
「501、502・・・」部室の前の廊下で一生懸命に素振り1000回をしている新入生の中にその彼もいた。
今でこそ、石川佳純ちゃんや水谷くん達の活躍で、脚光を浴びている卓球も当時は暗いスポーツと認定されていた。
野球、サッカーバスケットボール部が一軍だとしたら、これまた二軍である。
初恋
「俺の後ろ女子、可愛いって思わんや?」彼が突然聞いてきた。
突然の問い掛けに戸惑いつつも「まあ、そうやね。。。」と答えるのが精一杯の私。「やっぱ、そうやろう!!」と弾ける笑顔。
それからしばらくの時間、彼はその女子の事を話し続ける。私は彼のつばを顔面に受けつつ耐え続けるという修羅場が続いた。
「このクラスの女子の中で誰が好き?」って奴、必ずいると思うが、彼はそれを超越していた。
私が卒業した小学校は田舎の方で、彼は街の小学校だったので、少し『ませていた』のかもしれない。
「めしの時も風呂の時も便所の中でも、頭から離れんさね」と彼。
「それは、初恋やな!!」と今なら上から目線で伝えることが出来るが、当時の私は「大変やね!!」と言いつつも、
はっきりと想いを口にする彼の事を心のどこかで羨ましいと思っている自分がそこにいた。
高嶺の花
彼が想いを寄せるその彼女は、クラスの中でもすごくモテていた。
チヤホヤされるわけではなく、好きな子にはわざと意地悪をするというアレである。
彼女がおとなしいことをいい事に、クラスでイケメンの男子と付き合っているなどと勝手に吹聴する奴もいた。
勝手に噂をされたそのイケメン男子はスポーツ万能でバスケ部で、気さくな性格で男友達も多い、みんなからの冷やかしも、さらりとかわす。
完全な一軍だ。それも大谷翔平レベルの!!
それに対して、性格は良いが、スポーツは中の下、学業の方は数学のテストで100点満点の5点。いかんともし難い。
当時の私では、とても彼の背中を押すことは出来なかった。
「高嶺の花やな。。。」彼がつぶやく。
『高値の花と』受け取った私は、「いや、こればっかりは小遣いを貯めてもねえ」と意味不明の慰めに彼は苦笑い。
いつしか彼は、その彼女の事を一切話さなくなってしまった。
彼の初恋は儚く終わった。相手に想いを伝える事も無くだ。それだけではない、一言の会話も交わす事が無かったらしい。
やって後悔orやらずに後悔?
「(テストで5点しか取れなくても)、あの子と会えるから学校行くのが楽しくてしょうがない」と、毎回私に伝えに来ていた彼。
「高嶺の花って、自分が勝手に決めとるだけやろ?自分で壁作って?」
「告白して、振られて後悔するより、そんだけ強く想っている気持ちをぶつけないままで終わったら、そっちがよっぽど後悔するやろ?」
今の自分なら、間違いなくそう伝えるだろう。
恋多き二軍男子
2年生以降はクラスが別れてしまい、彼の恋愛事情は耳に入らなくなった。
卓球部も辞めてしまった。
「自分を活かすために」と違う部活に入部していた。バスケ部だった。身長161cmで自分を活かす?下心がミエミエだ。
バスケ部に入ればモテる、女子バスケ部に可愛い娘がいる。このどちらかに違いないと私は確信した。
前者だった。
彼の考えはこうだ。
「イケてる部活に入って、イケてる奴らと行動すれば自分もイケてる男になってモテるに違いない!」
正にコンフォート理論である。「金持ちになりたければ、金持ちの中に入る、モテたいならモテる男たちの群れに入る」のだ。
彼の行動は正しかったが残念ながら時間が足りなかった。
とは言え、少しずつ自分に自信を持ちだした彼は、一年生の時の苦い想い出を糧にして、想いを寄せた子には、積極的にアタックしていった。
その後、付き合ったと言う話は聞いていないので、恐らくすべて玉砕したと思う。
それでも彼はめげなかった。もちろん、振られた相手にしつこくつきまとう様なダサい真似はせず、日々明るく過ごした。
そんな彼を神様はちゃんと見ていてくれたのだ。
なんと、彼の事を好きだという女子が現れた。そして卒業式の日にその子は勇気を振り絞り、彼に「2番目のボタンが欲しい」と告げた。
今の時代はよく分からないが、当時は好きな人の制服の2番目のボタンを欲しがるのは告白に等しかった。(柏原よしえ:春なのに参照)
ちなみに卒業式の後、一軍男子の制服にそれは一つとして残っていなかった。2番目のボタンに限らずである。
話を戻そう。彼は、その娘の言葉に躊躇した。他に想いを寄せた人がいたわけではない。想いを寄せた人たちからは全て振られていたからだ。
躊躇した理由、それは二番目のボタンの意味を知らなかったから・・・ボーっと生きてんじゃねえよ~と今ならチコちゃんに怒られそうだが。
戸惑う彼に対して、勇気を振り絞った彼女は、遂にしびれを切らし「もういいです」と付き添いの友達と帰って行った。
長いようで短かった三年間、彼は二軍男子のまま、中学校の正門を後にした。
しかし彼はこの三年間で二つの大きな武器を身につけたのだ。それは『根拠の無い自信』と何度振られてもめげない『鋼(はがね)のメンタル』だ。
襲い掛かる新たな試練
厳しい恋愛戦争に打ち勝ち、一軍男子への昇格に執念を燃やす彼は、この二つの大きな武器を手に高校と言う新たな戦場へと飛び込んだ。
彼が飛び込んだ戦場、それは私と同じ工業高校である。多少の女子はいらっしゃるが、ほぼほぼ男子校だ。
確かに数少ない女子とお付き合いできれば、それはかなりのレベルアップ、一軍昇格と言っても過言ではないだろう。
しかしあまりにも・・・あまりにもリスクが高すぎる。
なにを血迷ったかと彼を問い詰めると、彼は冷静に答えた「建築家ば目指しとったとさ!!」
なるほどそういう事か、ちゃんと将来の事を考えてたのかと安堵しそうな自分は、瞬間我に返った。
「いや、お前機械科やん、俺と一緒の!」
「うん、建築科は落ちて、第二希望の機械科になった。」
彼は、あっけらかんとそう言いながら、将来の不安より、今を全力で楽しもうと言って笑った。
今を、この瞬間を全力で生きる、マインドフルネスな思想を彼は16歳にして持ち合わせていた。
次なる戦略
『ほぼ男子校』に迷い込んでしまった彼は、既に次の戦略を準備していた。
スマホもSNSも無い時代に、二軍男子がこの男子校プリズンの恋愛戦争に勝利する唯一無二の方法は、彼が手にしていた本に掲載されていた。
『文通』である
彼は、当時雑誌の後半に掲載されていた『文通をしませんか』のコーナーを誇らしげに見せて、「みんなで文通しよう、俺はこの沖縄の子と文通する」と
高らかに宣言した。目鼻立ちのはっきりした、一つ歳下の可愛い子だった。
記憶が定かではないが、当時は今の様に個人情報に対しての規制が緩かったのか、普通に住所が掲載されていたようだった。
実際にこの文通から、交際に発展して結婚された人もいたらしい。
私は、字が下手で文章力も無かったのでその場で断ったが、他の二軍男子はそのチャンスを逃さなかった。
文通作戦を敢行したのは、発起人の彼と他に3名、いずれもお相手の条件は、写真を同封してくれとの事。
当時はデジカメもないので、チェキの先祖ともいうべき、ポラロイドカメラで、各々写真を撮って、手紙と共に相手へ郵送した。
彼以外の3人はビジュアルも悪くはなく、文章力はあったようで、何度か文通できた様だった。
しかし彼の文通相手、沖縄の娘からの返事が届くことは無かった。「頑張って書いたとけど恐らく沖縄の海の藻くずになったばい」
どれだけ頑張っても二軍男子は二軍のままだった。
新たな旅立ち
時が経つのは早いもので、あっという間に卒業式。工業高校は当時、その大半が就職をする、しかも大半が県外だった。
それなりに楽しく遊んだ二軍男子たちもそれぞれ新しい地へと旅立った。
彼は仲間の誰よりも早く佐賀を出発した。「楽しかった、有難う」とお互いに涙をポロポロ流しながらハグした事を昨日の事の様に思い出す。
彼は東海地方にある会社に就職。これまでの男子校プリズンと違い、女性が圧倒的に多い職場だった。
勉強に関しては、中々のポンコツだったが、元来の明るさと行動力に加え、仕事に対して極めて真面目に取り組んでいた彼の仕事ぶりに対しては、
上司や先輩の評判も良く、同期の女性からも信頼を得ていた。(本人談)
お酒の席での彼の学生時代のバカバカしい体験談は女子校卒業の女性に大ウケで、沢山の女性から、食事の誘いを受けていた。(本人談)
知らず知らずのうちにコミュニケーション能力が磨かれていった彼はもう二軍男子では無くなっていた。
あの頃の彼を知っている私にとっては、この時点でも奇跡だと思ってしまうが、本当の奇跡はここから始まる。
奇跡の出逢い
就職して一年が過ぎ、職場や周りの環境にもだいぶ慣れてきた彼だったが、特定の女性は居なかった。
学生時代と違い、もし関係がギクシャクしたら職場に迷惑を掛けるかもしれないと自重していたのだ。
5月になると新人さんが研修を終えて、各現場に配属された。ほとんどが女性だ。
彼の現場にも三人の女性が配属された。一人は熊本、一人は長崎、そしてもう一人は沖縄の子だった。
自分の出身地が佐賀という事を伝えて言葉が分かるかと尋ねると、熊本と長崎の子は大体分かると答え、沖縄の子は分からないと答えた。
地元が近いこともあり、熊本と長崎の子とは、地元あるあるなどで、会話が弾むのだが、彼の性格上、一生懸命に沖縄の事を学び、なるべく楽しい話題を
沖縄の彼女に提供した。インターネットも何もない時代だったが、彼女とコミュニケーションを取るために彼なりに努力をした。
そんなある日、沖縄繋がりでウケようと思って、学生時代に文通にチャレンジしたけどあっけなく玉砕した話を面白おかしく話してみた。
すると彼女から意外な話が出た。
彼女が文通に応募していたこと、返事は何通か届いたが、結局長続きしなかったこと。目鼻立ちのはっきりした美人さんだから、やはり返事は来たのだ。
彼は、全員に返事は書いたのかと聞くと、全員に書いたと。更に、佐賀県からは届かなかったかと聞くと、佐賀からは無かったと思うとの返事。
一つ年下で、目鼻立ちのはっきりした美人の沖縄の人。
残念ながら失念してしまった、彼女の名前。
まさかそんなわけ無いかと、話を終わらせようと思った時、当時掲載されていた内容を一つ思い出した。
沖縄の守り神『シーサー』の事だ。
その時、二軍男子はみんなで盛り上がったのだ。小学校の時に映画で観た『ゴジラ対メカゴジラ』この映画の中に出てくる、沖縄の守り神『キングシーサー』
キングシーサーはゴジラと力を合わせてメカゴジラを倒す神獣だ。
その話をしたら、彼女は「えーっ」となって「それ間違いなく私です」
4年の時を経て奇跡的に出逢った、元二軍男子の彼と、目鼻立ちのはっきりした沖縄美人の彼女は、三年のお付き合いを経て結婚し、現在は二人の娘と
二人の孫を授かった。
学生時代にイケてなくても、数学で5点しか取れなくても、自分を信じてチャレンジしていけば奇跡を起こせる事を彼は証明した。
ところで、当時彼が出した手紙はどこへ行ったのだろうか。
(完)